大切な人の葬儀において、参列者の代表として弔辞を読む機会は人生にそう何度もあることではありません。
弔辞を依頼されたときは、快くお引き受けするのが最大のマナーです。
故人との別れを惜しみ、遺族の悲しみに寄り添って、心からの冥福を祈りを表現する弔辞のマナーと、故人との関係性別の弔辞の文例を詳しく解説します。
弔辞のマナー
葬儀は、故人にとって人生の幕引きをする大切なセレモニー。その中で参列者代表としてお別れの言葉を述べるわけですから、故人や遺族に失礼がないように、しっかりとマナーを押さえておきたいものです。
まずは弔辞の基本的なマナーについて確認していきましょう。
弔辞は故人に最後に贈る別れの言葉
弔辞とは、故人への哀悼の気持ちを伝える言葉。どのような形式の葬儀でも、宗教を問わず、儀式のひとつとして弔辞が読まれるケースがほとんどです。
葬儀の規模にもよりますが、親族から故人ととくに親しかった人(3~5人程度)に弔辞を依頼することが多いです。
指名されたときは快く受けるのが、故人への何よりのはなむけ、マナー。一般的な葬儀・告別式の式次では、読経後に弔辞・弔電披露が行われます。
正式な弔辞は巻紙・奉書紙に薄墨で書く
社葬など、正式な弔辞は、巻紙・大判の奉書紙などに薄墨で筆書きします。巻紙や奉書紙を用いた場合は封筒には入れず、奉書紙で左前に包むのがマナー。
ただし最近は、便せんに万年筆やペンで書き、白封筒に入れる略式の弔辞も少なくありません。
家族葬や身内だけの葬儀の場合は、略式で作成してもよいでしょう。この場合に気を付けたいのは、使用する封筒は二重でなく一重のものに(不幸が繰り返されないように)することです。
故人の幼い孫などが弔辞としてメッセージを読む場合は、形式にはこだわる必要はありません。
孫が描いた故人の絵を掲げ、心のこもった短いお別れの言葉を話すスタイルでも、心のこもった弔辞となるはずです。
弔辞を読む場合の流れ・所作
一般的な葬儀の中では、読経の後に弔辞・弔電披露が行われます。実際に弔電を読む場合の所作についてまとめました。
- 式の司会者に指名されたら霊前に進み、僧侶・遺族に向かって一礼し、その場で故人の遺影に向かって一礼
- 弔辞を包んだ奉書や封筒から出して広げ、故人に語りかけるようなつもりで、静かに気持ちを込めて読む。意識的に間を取って、ゆっくりと。紙は胸の高さに掲げて読む
- 弔辞を読み終わったら、奉書や封筒に元のように収める
- 弔辞という表書きを祭壇側から読めるように向けて、壇上に置く
- 故人の遺影に向かって一礼し、次に僧侶・遺族に一礼して席に戻る
弔辞の書き方
弔辞には、いくつかの押さえておきたいポイントがあります。
いきなり心に浮かんだ言葉を通常の手紙のように書くのではなく、後述のポイントを踏まえつつ内容を箇条書きにしたあと、構成を組み立ててから書いていくとスムーズです。
弔辞の長さは読み上げ3分、800~1000文字程度が目安
弔辞の長さに決まりはありませんが、極端に短かすぎるのはしめやかな葬儀の雰囲気にそぐいませんし、逆に読み終わるのに10分以上かかるような長文も式の進行を妨げてしまい、マナーに適しているとは言えません。
目安としては、ゆっくり読み上げて3分程度、文字数にすると800~1000文字程度が適当だと言われています。
弔辞を読む人数が絞り込まれていて、なおかつ故人と深い関係にあった人が参列者の心を打つエピソードを上手に披露できるような場合はこの限りではありませんが、文章をまとめることやスピーチ自体に慣れていないなら、こうした目安に沿って弔辞を作成するのがよいでしょう。
聞き取りやすく平易な言葉で、故人に語りかける文章を心がける
人生で最も荘厳な儀式の一つである葬儀で弔辞を読むとなると「格式高く立派な文章を」と考えてしまいがちですが、肩ひじ張る必要はまったくありません。
「格式高く」と四字熟語や格言をちりばめてしまうと、葬儀に参列した方は意味が取りにくく、いかにも形式的で空疎な印象になってしまいます。
また、故人の業績などをことさら大げさに飾り立てたり、長々と遺族へのなぐさめの言葉を連ねるお涙頂戴的な弔辞も、独りよがりなイメージになってしまうのでいただけません。
シンプルで心がこもった語りかけ・お別れの言葉を心がけましょう。
また弔辞は、文章として紙に書きますが、葬儀の場で「読み上げる」ことを念頭に、参列者が聞いて1度で聞き取れるように平易な言葉で作成することが大切です。
とくに故人の友人・家族代表として弔辞を読むのであれば、生前の故人との親密さが伝わるような、語りかける口調の文章を心がけましょう。
弔辞は5つの要素で構成する
弔辞の構成を組み立てるときは、以下の5つの要素を盛り込むのが一般的です。
- 導入
- 訃報に接した際の悲しみ・驚きの気持ち
- 故人の人柄、経歴、エピソードなど
- 今の心境、今後への思い(遺族へのいたわり)
- 故人の冥福を祈る別れの言葉
まずは導入で、故人にフルネームでの呼びかけから始まり、簡単に故人との関係説明や自己紹介などを行います。そして本文へ進みます。
あくまでも故人に語りかけるメッセージであることを心にとめ、伝えたいことに要点を絞って簡潔な文章になるよう、推敲しましょう。
弔辞での注意ポイント
弔辞は、普通のスピーチや挨拶とは違い、葬儀の場ならではの独特の注意点があります。忌み言葉を避けたり、葬儀を執り行う宗教によって使うべきではない言葉があるなど、知識がないとわかりにくいものも少なくありません。以下に主な注意点をまとめました。
忌み言葉は使わない
葬儀の場や弔辞では、不幸が再来するのを嫌って「重ね言葉」をさけるほか、縁起が悪く不吉なことを連想させる「忌み言葉」は使わないように注意します。
縁起が悪い不吉な「忌み言葉」
「切る」「離れる」「浮かばれない」「九」「四」など
繰り返しの言葉 (不幸が重なるイメージがあるのでNG)
「重ね重ね」「くれぐれも」「たびたび」「再三」「返す返す」「また」「追いかける」など
直接的な表現は言い換える
ストレートすぎる言葉は、言い換えて使います。
- 「死去」⇒「逝去」
- 「死んだ」⇒「息を引き取られた」「他界された」
- 「急死」⇒「突然の不幸」
- 「生きているころ」⇒「生前」
宗教用語に気を付ける
宗教によって生死観が異なるため、故人の信仰する宗教や葬儀を執り行うスタイルによっては、使わないほうがいい言葉があります。
たとえば、仏教では「浮かばれない」「迷う」といった言葉は使わないのが一般的です。ほかにも、厳密にいえば「ご冥福をお祈りします」という言葉を使っていいのは、浄土真宗を除く仏教だけで、神道・キリスト教徒の人にはふさわしくありません。
ほかにも「成仏」「供養」「往生」などは仏教用語のため、神道・キリスト教では使われません。
エピソードは厳選する
故人との親しい関係性や、故人の人柄を紹介するエピソードは、生前の交流が親しければ親しいほどたくさんあって、あれもこれもと弔辞に盛り込みたくなってしまいがちです。
しかし、弔辞では故人の人柄や自分だけが知る長所を紹介できるエピソードを1つか2つに絞りこんで短く、印象的に紹介することが重要です。
また意外な一面を披露しようと、過去の武勇伝や失敗談、色っぽいエピソード(すごく女性にモテたなど)・下ネタ(論外です)をチョイスするのはタブー。
故人の親族のほか仕事関係などどんな人が聞いても不快に感じないような、故人のよい思い出を厳選して紹介するように心がけてください。
自分だけが知る故人のとの笑い話になる失敗談などは、通夜振る舞いや会食の場で、披露する相手をしっかり見極めたうえで語るように気を配りましょう。
弔辞の例文集~関係性別ポイント
基本のマナーや押さえるべきポイントは変わらないものの、生前、故人とどのような関係だったかによって弔辞も少しずつ変わってきます。
自分が、どんな立場の人を代表して(会社の代表として、部下代表として、友人代表としてなど…)弔辞を述べるのかを考えれば、どの程度格式を重んじるべきか、どのようなエピソードを披露するのがふさわしいかなどがイメージできることでしょう。
ここからは故人との関係性ごとに、弔辞の例文をご紹介します。
社葬などでの社員代表としての弔辞
故・田中誠司社長のご霊前に、社員一同を代表しまして、お別れのご挨拶を申しあげます。
田中誠司社長は先々代の社長であるご祖父様の立ち上げられた会社を、二代目社長の父上様から引き継がれました。創業以来のお客様第一の誠実な商売の姿勢を受け継ぎつつ、基盤である販売業に加えて、時流の変化にマッチしたレンタル部門を新たに立ち上げ、景況が厳しいなかでも業績を地道に伸ばしてこられました。
優れた経営手腕やリーダーシップを発揮する一方で、社員への細やかな心配りも忘れない方でした。社員の結婚・子供の誕生などの折にははなむけの言葉、病気や身内の不幸の折には慰めと励ましのメッセージを、自筆のお手紙にしたためてくださっていました。社員の幸せをわがことのように喜び、悲しみには親身に寄り添ってくださる社長に、社員一同信頼を寄せておりました。
ビジネスマンとしてでなく人間的魅力にもあふれる田中社長の元、社員一丸となって当社の一層の発展に注力していたさなかでこの悲報に接し、悲しみと不安はつきません。しかし社員のお示しくださった指針を受け継ぎ、社員一同でご恩義に報いていこうと気持ちを奮い立たせております。
心よりご冥福をお祈りいたします。どうぞ安らかにお眠りください。
故人の親族のほか、会社の取引先の代表、業界関係者なども参列する社葬で社員代表として弔辞を読む場合は、形式の整った格式ある弔辞が適しています。業績のほか人柄についてのエピソードも盛り込むとよいでしょう。
部下から上司への弔辞
故・木村大輔部長のご霊前に、企画部を代表し、哀悼のご挨拶を申しあげます。
1か月ほど前に、電話で進行中のプロジェクトについてのご指示とアドバイスをいただいたのが、木村部長との最後のお別れになってしまいました。その際も、仕事や我々のことを気遣われ、早期の復帰を目指しているという部長の力強いお言葉に励まされておりましただけに、今回の訃報に愕然としております。
木村部長の深く広い情報収集力と企画立案の手腕には、社内だけでなく取引先などからも定評があり「木村さんのところなら」と難しい仕事や短い納期のリクエストを特別に、快く受けてくださる取引先も数多くございました。部下である私たちは「広くアンテナを張り巡らして、どん欲に最新の知識を吸収し続ける」、「部下や取引先とも、まずはひとりの人間同士として信頼関係を築く」という木村流の仕事術に魅せられ、いつか自分も部長のような企画のプロフェッショナルになりたいと目標にしておりました。そんな私たちにとって、部長のご逝去は大きな悲しみであり損失です。
これまで公私にわたり部長に身をもって教えていただいた教訓を生かし、今まで以上に仕事に取り組んでいくことこそ、部長のご恩に報いる最善のことと考え、一層精進してまいります。
どうか安らかにお眠りください。
職業人としての故人の業績とともに、上司として敬愛・信頼していたことを語り、故人の遺志を引き継いで仕事にまい進する決意を語ります。
友人代表としての弔辞
長澤圭吾君に、学生時代からの友人として、別れの言葉を送ります。
大学で君に出会ってから、もう半世紀以上がたちました。気が付けば、昭和・平成・令和の時代を共に歩んできたわけです。君と最初に出会ったとき、こんなに長い付き合いになろうとは想像もしませんでした。地方出身の田舎者だった私にとって、そのいでたちや言葉、振る舞いすべてがシティボーイそのものの東京育ちの君はあまりにもまぶしい存在でしたから、こんなに長く、そして親しく付き合う間柄になろうとは思いもしなかったのです。
長澤君は、若いころから人一倍正義感が強く、曲がったことの嫌いな男でした。たとえ相手が教授や我々が所属した屈強なラグビー部の先輩であっても「それは間違っています」とはっきりと指摘し、ときにはケンカも厭わない一本気な長澤君。
小心者で流されやすい性格の私は驚きと憧れの気持ちを抱きつつ、少々ハラハラして見ていたのを懐かしく思い出します。そして君は同時に、他人の心の痛みがわかる情の厚い人でした。私が母を亡くした時は、まるでわがことのように涙を流し、沈んでいた私のそばに最後まで付き添ってくれました。そんな君にとって、教師という職業はまさに天職だったと思います。熱血教師として、生徒ひとりひとりに寄り添い、導き続けました。またラグビー部の顧問として早朝から練習の指導にあたる大変さや楽しさも、会うたびに語ってくれましたね。
お互いが家庭を持ってからも、家族ぐるみで行き来して、まるで親戚のような付き合いでした。意気盛んな若いころから孫を持つ身となった今まで、君と過ごした時間は、私にとってかけがえのない思い出です。
今、唯一無二の存在である親友の君を失い、私は自分の半分がなくなってしまったかのような喪失感でいっぱいです。しかし、若いころ母を失った私を君が励まし続けてくれたように、今度は私が君のご家族の心に寄り添い、悲しみを共有しつつ支えていく番だと決意しています。
長澤君、ゆっくり安らかにお休みください。これまでの友情を心から感謝します。ありがとう!
長年の付き合いのある友人ならではの思い出、若いころの故人の様子などを盛り込んで、遺族らの励ましになるようなメッセージにするとよいでしょう。
幼い子供・孫からの弔辞(お別れの言葉)
大好きな和江おばあちゃんへ。
たくさん遊んでくれて、いっぱい抱っこしてくれてありがとう。
おばあちゃんが作ってくれたお手玉と熊のぬいぐるみはわたしの宝物です。
教えてくれたお手玉遊びや昔のお歌、忘れません。おばあちゃんが作ってくれるホットケーキがもう食べられないのは悲しいです。
おばあちゃんがなくなってから、涙がいっぱい出ますが「いつも笑ってると人に好かれる美人さんになれるよ」とおばあちゃんが教えてくれたので、これから少しずつ笑えるようになりたいです。
弟の雄太は、まだ字が書けないのでおばあちゃんの笑っているお顔を絵にかきました。
お空にいっても、ずっと私たちのことをみていてね。大好きです。さようなら。
幼い孫や子供などがお別れの言葉を述べるときは、子供の言葉や気持ちをうまくくみ取って親が短い文にしてあげるとよいでしょう。
事前に簡単なリハーサルを行っておくと、緊張も少し和らぐかもしれません。メッセージを読む孫以外にも孫が複数いるときは、そろって祭壇の前に並んで故人と最後のお別れの挨拶をするのもよいでしょう。故人との思い出を絵にして、それを披露するのも後々まで思い出に残ります。
まとめ 弔辞ではマナーを踏まえつつ、心からの別れの言葉を述べる
弔事のマナーや、関係性別のポイントについて解説してきました。
- 弔辞を依頼されたら、快く引き受けるのが何よりのマナー
- 弔辞を記した紙は、最終的に遺族に渡すことを考え、丁寧に書く
- 弔辞の長さは読み上げると3分程度になる800~1000文字程度が目安
- 忌み言葉を避け、直接的な表現は言い換える
- エピソードは1~2個に厳選する
本当に親しかった人だけで葬儀を行いたいと考える人が増えている近年においては、社葬などのオフィシャルなもの以外は、形式ばった弔辞は好まれない傾向にあります。
家族葬や本当に近しい人だけの葬儀の場合は、弔辞を読む人だけが知る故人の心温まるエピソードを披露したり、孫や子供からの愛情を込めた別れの言葉こそが、最後の別れの言葉にふさわしいと考える人が多いのです。
だからこそ、弔辞を依頼されたら快く引き受け、気持ちのこもった言葉で故人に語り掛けるような文章を作成するよう心がけましょう。