老後に必要な資金は、ひとり3000万円以上(なかには9000万円は必要という声も…)といわれています。
しかしある調査によると、退職目前の50代の実際の老後資金準備額は約600万円と、必要とされる資金には遠く及びません。
さらには、退職後の生活準備金が「0円」と答えた人が約45%と大多数です。
仕事をリタイアしたとたん、生活に困るようでは大問題です。そんななか「リバースモーゲージ」という老後資金の捻出法が注目を集めています。
ここでは、リバースモーゲージの仕組みや取扱銀行、注意点についてまとめました。
もくじ
リバースモーゲージの仕組み
「リバースモーゲージ」「リバースモーゲッジ」とは、自宅や不動産を担保とした融資制度のひとつです。
自宅を所有しているけれど現金収入が少ない高齢者世帯が、住み慣れた自宅に住んだままで現金収入を確保するための手段になります。
初めて耳にする言葉だという人も少なくない「リバースモーゲージ」の内容や仕組みを、詳しく見ていきましょう。
主に55歳以上を対象にした融資
リバースモーゲージは、高齢者保有の自宅や不動産を担保にして、担保価格の一定範囲内で年金を融資する高齢者限定の融資制度です。ほとんどの場合、55歳以上の人でなければ申し込むことができません。
基本的に生前は返済しない
リバースモーゲージは、亡くなった後で自宅を売却(あるいは一括返済)して返済するものなので、借りたお金(元金)の返済は、生前中は必要ありません。
ただし、利息が元金に加算されると翌日は加算された元金に対して利息が発生してしまう複利状態になるので、「生前は毎月、利息だけ払う」という方式を取るプランもあります。
住宅ローンとの違い
家を売却してお金を手に入れるのではなく、家に住み続けながらお金が借りられる仕組みと言えば「住宅ローン」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。しかし、住宅ローンとリバースモーゲージは全く違います。
住宅ローンは、資金を借りている人が完済するまで毎月返済し続けることが前提です。そのため厳格な審査を行い返済能力があると認められないと融資してもらえません。万が一、返済が困難になった場合、銀行が抵当権を行使して担保の不動産を競売にかけて借入金の残金返済に充てます。
一方のリバースモーゲージは、そもそも毎月の返済は前提としていません。返済は期日(多くの場合、借入た人の死亡時)に一括返済か、担保の不動産を売却し、全額返済するものです。担保物件の資産価値が下降してしまうと、物件の売却だけでは全額返済できない可能性も出てくるので、リバースモーゲージの場合は、担保価格の半分程度が融資の上限となることが多くなります。
リバースモーゲージの良い点(メリット)
大まかな仕組みがわかったところで、リバースモーゲージのメリットはどんなところにあるのかを、まとめてみましょう。
自宅に住んだままで現金が確保できる
家を売却して老後資金を得るとなれば、新たな住居探しや引っ越しなどが必要ですが、リバースモーゲージの場合は、住み慣れた自宅に住んだままで現金を確保することができます。
また、老人ホームなどに入所することになっても、自分が生きている間は「自宅を手放したくない」と考える高齢者の方も少なくありません。そのような場合でも自宅を残したまま、施設の入所費用などが捻出できます。
使い道が自由
多くのローンは、使途目的がはっきりと定められていますが、リバースモーゲージの場合は、得た資金を比較的自由に使うことが可能です。生活費、レジャー費、施設への入所費など老後を自由に楽しむ資金として使うことができます。
ただし、リバースモーゲージ商品の多くは、ローンで得たお金を事業目的には使えないことが多いです。あくまで仕事をリタイアした高齢者のためのローン、というわけです。
高齢でも借りられる
通常のローンは、年収や他の借金の額、勤め先など厳しい審査を受ける必要があります。しかしリバースモーゲージの場合は、こうした通常のローン審査には通りにくい、年金生活をしている人でも自宅があれば、借りられる場合が多いのです。
高齢になると、現金を借りる手段は非常に限られますが、リバースモーゲージは「高齢者限定の」仕組みですから、現金が必要な終活世代にとってはありがたい商品といえるでしょう。
生きている間は元金の返済不要
リバースモーゲージで借り入れたお金は、契約期間終了時に返済します。この契約期間終了の期日を「死亡時」としている場合、生前には基本的にお金を返済する必要がありません(ただし、利息分についてのみ毎月返済して、複利で増えていく利息分によって借金の総額が増えないようにする返済法もあります)。
毎月の返済のプレッシャーがなく老後を楽しめるのは大きな利点ですね。
残された家族に負担をかけない
お金を借りて、自分が生きている間返却しなくてもいいとはいえ、その借金が残された家族に回ってしまっては元も子もありません。しかしリバースモーゲージの場合は、死亡時に借金が返済できるので、子供たちに負債を負わせる心配がないのも安心な点です。
また、近年増えているのが、亡くなった親の自宅の維持・処分についての子供の負担問題です。相続するにも税金がかかったり、毎年の維持・管理費や毎年必要な固定資産税など「住むわけではないのにかかるお金」は意外に多く、せっかく親が家を残してくれても負担に感じる子供世代も少なくありません。
売却についても、家の中の片づけ、売却業者の手配他、やらなくてはいけない雑事は山のようにあります。しかも相続した家・不動産を売ると、売却価格に応じてその次年の所得税や住民税も跳ね上がり、あとでびっくりというケースも。
「子供に家を残してやる」ことが昔ほどありがたくなくなってきた今、リバースモーゲージの活用で、死亡時にローンの清算と同時に家の処分も完了するのは、かえって便利なのかもしれません。
リバースモーゲージの注意点(デメリット)
メリットもたくさんあるリバースモーゲージですが、もちろんリスクやデメリットもあります。こうした点をしっかり理解してから、リバースモーゲージを利用するかどうか、熟考することが重要です。主なデメリットについて見ていきましょう。
予定以上に長生きすると困窮することも
死亡時に自宅売却でローンを清算することを前提に、毎月年金のように現金を入手できるリバースモーゲージ。しかし想定以上に長生きしてしまうと、融資を受けた金額分を受け取りきってしまい、その後に困窮する場合があります。
本来は喜ばしい長寿ですが、リバースモーゲージを考える場合は、自分の寿命予想+α年を想定してプランを組まないと、大変なことになりそうです。
担保対象の自宅に制限がある
金融機関によっては、一戸建てやマンション、住居のある地域、築年数などローンが組める住宅に条件があります。
土地付き一戸建てに比べて集合住宅のマンションは、同じ評定額の「持ち家」であっても、そこから借りられるお金の割合が違う(マンションは土地付き一戸建てほど多くは借りられないなど)場合も。扱う金融機関によって、さまざまな条件(とくに地域)がありますので、事前によくリサーチすることが必要です。
契約中に自宅の価格が大幅に下落するとリスク大
リバースモーゲージ商品は、年に1度、不動産価値や金利の見直しが行われます。地価が暴落して土地付き一戸建ての自宅の価値が大幅に下がるなどした場合は、借入額が減少したり、毎月支払う金利が値上がりするリスクが考えられます。
死亡時に担保割れしていると負債が残る
リバースモーゲージは担保割れを防ぐために、担保となる自宅の評価額の半分程度しか融資されないことがほとんどです。それでも死後の清算となったときに借入金が担保の自宅の売却価格を上回ってしまうと、不足分は負債となり、他の遺産でまかなうか残された家族の負債になってしまいます。
将来相続する人全員の同意が必要
リバースモーゲージの借り入れで起こりがちなトラブルとして「お金を貸した金融機関が、親をだまして家を取られた」などという相続人からの訴えです。これを防止するために、一般的なリバースモーゲージの契約時には「推定相続人」全員からの同意が必要です。
戸籍などで推定相続人を確認し、その全員から同意を得たという書類を作成する必要があります。その手続きや話し合いなどは、少々面倒かもしれません。
利払い型でない場合は借入金が増える
リバースモーゲージで借り入れたお金には毎月、利息がかかります。この利息分も死亡時の清算でOKというプランもありますが、その月に支払わない利息分は元金に加算されて、翌月はこの利息分を加えた元金に利息がかかる複利方式です。そのため、少しずつ借り入れの総額(元金)が増えて行ってしまいます。
たとえば1000万円を金利2.5%で借り入れて金利も支払わないでいると、十年後には元金は1,284万円ほど。利息だけで約300万円の借金が増えてしまう計算です。
毎月利息分のみ支払う「利払い型」という返済方法なら、十年間で約250万円なので50万円ほどトータルの返済額を少なくすることができます。ただし「利払い型」をチョイスすることができないリバースモーゲージ商品もあります。
子供と同居していると利用できない
子供と同居している自宅を、リバースモーゲージの担保物件にすることはできません。本人(もしくは配偶者)の死後、担保物件を売却してローンを返済することが基本のリバースモーゲージ。本人と配偶者以外の人(子供、子供世帯、孫など)が同居している場合は、リバースモーゲージを利用することができません。
リバースモーゲージの取り扱い銀行・公的機関
リバースモーゲージ商品を取り扱っているのは、金融機関と全国各地の社会福祉協議会などです。以下、リバースモーゲージ商品を扱う金融機関と公的機関のリストです。
[金融機関]
- 三井住友信託銀行
- 三井住友銀行
- 三菱UFJ銀行
- みずほ銀行
- りそな銀行
- 東京スター銀行
*これ以外にも、地域密着型の地方銀行・信用金庫などでも数多く取り扱いがあります。融資資金の使途制限、審査条件、ローン利率、対象地域などは各金融機関によって様々です。
[公的機関]
- 各自治体の社会福祉協議会(全国で対応)
- 世田谷シルバー資金融資制度(東京都世田谷区)
- 福祉資金貸付事業(東京都武蔵野市)
- ふれあい福祉資金あっせん融資事業(兵庫県伊丹市)
*公的機関のリバースモーゲージプランは、収入などの審査基準が民間よりも緩く、対象年齢は高め。利子の負担は民間よりも軽く、プライムレートがバブル期並みに上昇しても上限は年3%となっています。
リバースモーゲージはこんな人向き
リバースモーゲージは、どのような人に向いているのでしょうか。ポイントをまとめました。
不動産はあっても現金収入がない
敷地と家はあるものの、年金だけでは現金収入が少なく、余裕のある老後生活が送れない人には向いているといえます。
相続人がいない
「子供がいないため、家を残したところで相続してくれる人がいない」というような方の場合は、リバースモーゲージはぴったりのローンです。
子供には何も残さないと決めている
子供がいても、すでにそれぞれ自宅を所有しており残す必要がない。また、子供に「遺産」として家やお金を残すつもりがないという人にもおすすめです。
リバースモーゲージ利用の際に注意しておきたいこと
リバースモーゲージには、各金融機関によって担保条件、金利、返済方法、融資限度額、地域など、細かな違いがあります。
リバースモーゲージの利用を考えるときは、自宅のある地域に適用できる商品についての資料を片っ端から集めて徹底的に比較・検討すべきです。
一般の金融機関の商品に比べて金利が低い国や地方自治体が行う公的機関のリバースモーゲージは、所得制限(生活保護の受給対象者や低所得世帯など)があります。
自分の世帯に利用資格があるかどうかを、まずは調べてみるとよいでしょう。
担保となる自宅に住み続けられる利点はあるものの、融資額は不動産評価額の約半分程度なので、他の資産(株式・貯金など)を取り崩すことや、他の不動産物件の売却のほうが良い場合もあります。
老後の現金資金を得るための方法として「リバースモーゲージ」をご紹介してきましたが、リバースモーゲージのメリット・デメリットの両方をしっかり勘案して、利用するかどうかを決めることが最も大切です。