突然、やってくる大切な人のお葬式。考えたくはないけれど、それでも順送りなら、いつかは起こることです。
大きな悲しみと困惑、次々に降りかかる様々な手続きや裁量すべき事柄……。
そのうえ、不慣れな葬儀の喪主を務めることになったら、いったいどのように振舞えばよいのでしょうか。
いざというときの喪主としての心構えや基本的な作法のほか、葬儀に参列した方への挨拶などをまとめました。
もくじ
突然のことに、動揺する・わからないのは当たり前、と受け止めよう
「喪主」を務めるという経験は、めったにあるものではありません。自分の親や本当に近しい親族、そして配偶者、あってはならないことですが我が子が亡くなったというときに喪主を務めることになります。
また葬儀は結婚式などと違い、前もって日時が決まっているものではなく、ある日突然、大切な身内が亡くなって悲しみの中で葬儀の手配を行い、自分が喪主を務めることになるわけで、喪主としての振舞いに慣れているという人はほとんどいません。
葬儀のほとんどの進行や準備は、依頼した葬儀社が粛々と行ってくれますが、喪主には「挨拶」という大きな役割があります。これだけは場慣れた葬儀社スタッフに丸投げ、というわけにはいきません。
喪主とは
葬儀を主催する責任者。故人に最も近しい親族のなかで、遺族の代表者として参列者をお迎えします。
葬儀について、親族の中で意見が割れたときもそれをまとめて決定するほか、弔問客からの弔問を受け、挨拶をしなくてはなりません。また、葬儀後のお礼状も喪主の名前で送り、法要等も中心になって取り仕切るケースが多いです。
近年では、喪主を一人に定めるのではなく親の葬儀の際は兄弟・姉妹全員で喪主を務める場合もあります。
喪主と施主の違いとは?
本来、施主とは「お布施をする主」という意味です。つまり喪主を資金的に支える立場というわけです。
ただし最近の家族葬・個人葬の場合は、ほとんどの場合は「喪主」と「施主」は同じ人であることが多く、事故などで両親を亡くした若い子供が喪主になるときなどに、祖父・祖母らが「施主」となるなど特殊な場合を除いては、喪主と施主の区別はありません。
ただし社葬など、会社などが会場や葬儀社を手配して大規模に葬儀を行う場合は、施主が会社となり、喪主は遺族の代表というケースもあります。
それぞれの弔問客に対する参列へのお礼の挨拶ほか、通夜式終了時、告別式終了時などには、参列者全員に向かって、喪主から挨拶を行うのが一般的です。
大切な親族をなくした悲しみの中、いきなり「喪主としてご挨拶を」と促されると、いつも以上に緊張したり、何をどのように話していいものか混乱したりしがちです。しかし、葬儀は故人を悼む人が参列してくださっている場ですから、遺族代表の喪主が参列者の方に最後に行う挨拶は、大変に重要な意味があります。
人生のピリオドとなる葬儀の最後に、故人への思いと参列者への感謝を伝える喪主挨拶挨拶が、簡潔でありながら心のこもったものであれば、故人への最高のはなむけとなるだけでなく、参列者の心にも響きます。
突然のことに動揺したり、緊張するのは当たり前。喪主挨拶は、自分の精一杯の気持ち・誠意を込めて行えば、どんなに短くても、つたなくても、最高のご供養と御礼になります。
弔問客に対する挨拶
通夜、葬儀、告別式を通して喪主は故人のそばに付き添い、弔問客を迎えます。丁寧に頭を下げて挨拶し、焼香などが終わってお悔やみの言葉をいただいた際には、遺族の代表者として「ありがとうございます。故人も喜んでいることと存じます」などと簡潔にお礼を伝えます。
故人を失った悲しみで涙が止まらない、動揺して言葉がでないときは「ありがとうございます」だけでもよいですし、無言で深く頭を下げるだけでも、参列者には十分気持ちが伝わるはずです。
突然の訃報を聞いて駆けつけてくださった参列者への感謝の気持ちを忘れず、しっかりお辞儀をしていれば、言葉がないことを責める人はいません。
まずは「突然の訃報にもかかわらず、葬儀にご参列いただき、ありがとうございます」という感謝の気持ちを持つことが大切です。
葬儀の流れの中での喪主としての挨拶
それぞれの参列者や僧侶、お手伝いしてくださった方への個別のご挨拶以上に、とまどってしまいがちなのが、葬儀の一連の流れの中で遺族代表として行う「喪主挨拶」の場面です。
まずはどのような場面で、喪主が参列者全員に向けて挨拶を行うのか見ていきましょう。
その1 通夜式終了時
通夜式の終了時、喪主は参列者に挨拶をします。葬儀の前夜などに通夜式が行われる場合、告別式には事情により参列できない方もいますから、「どうせ葬儀でも挨拶できるし」と考えるのは厳禁です。
突然の訃報にもかかわらず通夜に駆けつけて弔問してくださった方への感謝と御礼は丁重に述べておくことが重要です。
もうひとつ大切なのは、葬儀に至る今後のスケジュールの告知です。通夜ぶるまいの席を設けてある場合は、その席へのお誘いと誘導、時間・場所の告知など、また、翌日以降の葬儀・告別式についてのスケジュールや場所について、たとえお知らせに書いてあっても再度、お知らせします。
その2 通夜ぶるまいの開始時・終了時
通夜ぶるまいの初めには、通夜への参列のお礼と、席を設けたので食事をしながら故人を偲んで思い出話などをしていただきたい由をお伝えします。
通夜ぶるまいは通常1~2時間程度です。遺族も心労が溜まっていますから、無駄に長引かせるのではなく時間を見計らって、喪主がさりげなく閉会の挨拶をして締めます。
このときは、通夜・通夜ぶるまい参加へのお礼、明日以降の葬儀・告別式の告知を行います。
その3 葬儀・告別式終了時
葬儀・告別式の終了時の喪主挨拶は、一連の葬儀の流れの締めとなる重要なものです。ここでも参列者へのお礼を最初に述べます。
次に、通夜から告別式までを滞りなく執り行うことができたことについての報告と御礼。さらには、今後も遺族一同とこれまで同様にお付き合いいただき、ご指導ご鞭撻をいただきたいというお願いをします。
葬儀の最後の喪主挨拶で盛り込む内容
喪主挨拶の中でもとくに重要な、葬儀・告別式最後に行う挨拶について考えていきましょう。
喪主挨拶は丁寧で誠意を込めることが大切ですが、無駄にだらだらと長い話はいただけません。故人の生前の様子を話す際、大変だった看病について長々と語ったり、思い出話を頭に浮かぶままに延々話すのもNGです。
ゆっくりと思い出話をするのは、通夜ぶるまいの席や親族のみが集まった機会にして、簡潔にまとめてお話しすることが大切です。とはいえ、時間もない中、いきなり挨拶文を考えるのは大変です。
以下に、挨拶に盛り込む内容をいくつかピックアップしました。
自己紹介
まずは喪主自身の名前と、故人との続柄を含めて自己紹介します。参列者の中には、故人とは生前に付き合いがあっても喪主のことを知らないという人もたくさんいます。
遺族代表として挨拶する自分が何者であるかを、参列する方々にお伝えします。
参列へのお礼
通夜・葬儀・告別式、それぞれに参列してくださったお礼を述べます。それぞれ仕事や自分の用事で忙しい中、訃報を聞いて駆けつけてくださった方々に心からお礼を申し上げます。
故人について
故人の生前最期の様子を、参列者の方々に説明します。簡単に病名や亡くなる前の様子などをまとめて伝えます。
さらに元気なころの故人の人となりを紹介します。口癖や日課、若いころに熱中した趣味やスポーツ、仕事の業績のほか、遺族である身内だけが知る故人の素顔が垣間見えるエピソードなどがおすすめです。
故人がお世話になった御礼
故人に成り代わり、故人とかかわりのあった参列者に対して生前お世話になった御礼を申し述べます。
今後へのお願いと、再度の御礼
今後も遺族一同、変わらぬお付き合いをお願いし、最後に参列への御礼を再度述べて挨拶を終わります。
葬儀社に相談すれば、それぞれの場面にふさわしい簡単な挨拶文例などを渡してくれる場合もありますが“ここで簡単に故人との思い出を”などと書かれていると、何を話していいか混乱してしまったり、話すうちにどっと涙があふれ、話の内容まで支離滅裂になってしまう……、などということもあるかもしれません。
しかし、喪主の挨拶が「立派であること」を期待する参列者は多くありません。たとえ、途中涙で言葉が途切れたり、つたない話し方になってしまっても『それだけ故人との別れが悲しいのだな』と心情を思いやってくれます。
どんな内容を話すか、メモにまとめて、それを読み上げる形であれば、途中でハプニングが起こっても、伝えなければならないお礼などを忘れることなく挨拶を終えることができます。
普段、人前で話したことがなく、スピーチの類は苦手、という方なら一字一句原稿として作り、そうでない人は、話すべき要点のみを箇条書きにしたメモを片手に挨拶に臨むとよいでしょう。
なお、メモ書きなどを見ながら挨拶をしても、マナー違反にはなりません。
知っておきたい「忌み言葉」
葬儀で喪主として挨拶する(あいさつ文を考える)際、気を付けたいのが「忌み言葉(忌み言葉)」を避けるという点です。
【忌み言葉とは】
信仰上の理由や、特定の職種・場面などで、忌みはばかって使用を避ける言葉、用語などのこと。儀式・儀礼など特定の場面において、縁起がよくないとして避ける言葉を指す。不吉な意味の語を連想させる言葉が多い。
葬儀で使わないほうが良い言葉の主なものとしては、不幸が重なる・再来する印象となるものや「苦しむ」「死」を連想させる言葉です。
- かさねがさね
- くれぐれも
- 再三
- たびたび
- ますます
- 次々に
- 死ぬ
- 死亡
- 九
- 四
とはいえ、これらの言葉を必要以上に避けて回りくどい表現になってしまうようなら、神経質になりすぎずともよい、というのが現代流の考え方です。原稿を作ったら、ざっとこうした言葉がないか洗い出し、他の表現に変えられるものは適宜修正するとよいでしょう。
葬儀最後の喪主挨拶例文
喪主挨拶は、それぞれが心を込めて考えて作成するのが一番です。でも、乱れた精神状態の中、限られた時間ではどうしてもうまくまとまらない、という方のために、最もオーソドックスな例文をご紹介します。
「本日は、ご多忙のところ、故○○の葬儀・告別式へ、遠路ご会葬いただきまして、厚く御礼を申し上げます。
私は、故人の長男○○と申します。
喪主として一言、ご挨拶を申し上げます。
故人○○は、齢87歳にして大往生にて息を引き取りました。
前日まで、おいしく食事を取り、家族と笑顔で話ができ、お医者様からも「見事な大往生です」とおほめいただいたほどです。
故人○○は、出身地の青森から■▽大学〇●学部進学を機に上京し、●△商事に20年間勤務、海外を飛び回った後に、その経験を活かして独立いたしました。
アジアからの雑貨や食品を扱う輸入業の仕事を始めると同時に結婚し、1男1女をもうけました。
私が子供の頃は、エネルギッシュに働き、家族水入らずで楽しむ時間もなかなか取れずにおりましたが、晩年は私ども子供に事業を任せ、妻◇▽と共に海外旅行なども楽しむ余生を送っておりました。
孫たちにとっては、海外の楽しい話をたくさん聞かせてくれるおもしろくて優しい「じいじ」でした。
歳を取ってからは、一杯やりながら仕事のこと人生のことを私たちにも語ってきかせてくれました。
息を引き取った後も、非常に安らかな寝顔で、ひょっとしたらまた目を覚まして「おい、今晩、一杯やるか」と声をかけてくれるのではないかと思ったほどです。
前触れもなく急に旅立ってしまいましたことは、とても寂しくもありますが、眠るような大往生は何よりのことと感じております。
そんな父を支えてくださったのは、ここにお集まりいただいている皆様でございます。仕事・プライベートを通じて、皆様方には大変にお世話になりました。
故○○に代わりまして、皆様方には心より御礼を申し上げます。
私どもは、未熟ではありますが、故人の教えを守り、精進していく所存です。これからも故人同様、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願いいたします。
生前にいただきましたご厚情に感謝申し上げ、挨拶とさせていただきます。本日は、最後までお見送りいただき、本当にありがとうございました。
喪主挨拶をしっかり務めるのが、何よりの供養
人生には様々な行事・儀式がありますが、本人不在で行われる最後の儀式が葬儀・告別式です。遺族代表の喪主が、その儀式の最後に、参列者にしっかりと挨拶ができたら、それ以上故人にとっての供養はありません。
大勢の人の前で、何かを話すのは大変に緊張するものですが、事前に作ったメモを見ながら、できるだけゆっくりと、心を込めてお話しすることで、聞く人の心を打つ挨拶になります。
もし、喪主になる日が来たら、故人を送り出す最後の挨拶としてふさわしい振る舞いができるよう、喪主としての自覚を持って、しっかり臨みたいものですね。