葬儀の会場は故人を偲ぶ参列者であふれています。参列者は黒い喪服を着て、緊張した式が数時間続きます。そんな葬儀会場を、悲しくも温かくアレンジしてくれるものが葬儀台に陳列される供花です。
供花は故人に対して弔意を表すために供えられます。一方、葬儀会場に色を与えてくれるといった側面もあります。
葬儀会場では、飾られているものから故人の棺桶に敷き詰められているものまで多くのお花を見る機会がありますが、なぜ法要とお花はこれほどに密接に関係しているのでしょうか。お葬式での供花に代表する花のあり方と役割、価格や種類などのマナーについて記載していきます。
もくじ
供花の風習、意味とは
供花の風習は、さまざまな宗教や世界の国々において存在しています。日本人は仏教人口の多くが仏教徒であるため、仏教式の葬儀が多いです。日本の葬儀では多くの会場でお花が見られます。
実は仏教とお花には関係性が強くあるのです。仏教とお花の関係を3点ほど示していきます。
1点目
仏教では蓮の花を代表とする植物が説法に記載されています。花は自然界の厳しい環境を克服し美しく咲き誇るため、死後に故人が仏となるための修行に比喩されるのです。
2点目
花が何度も再生を繰り返し咲く様子が、仏教にある輪廻転生の思想に通ずるところがあるといった面があります。
3点目
仏教用語でよく耳にする極楽浄土の世界が、お花畑のようなところであるため、葬儀会場を極楽浄土に見立てているとも言われています。
このような関係性から、日本における仏教での葬式に供えられる花があるといえます。なおこれらは関係性から導いたものですので、本当に正しい理由であるとは断定できません。
しかし章のはじまりで記載したように、その他の宗教や国々を超えて、葬儀の場にお花はあるのです。お花は葬式以外にも、結婚式やなんらかの記念日、コンクールの際にも渡します。お花を贈ることは相手の気持ちを満たしてあげるといった人の優しさを具現化したものであり、その風習は世界中にあります。
故人に対してお花を供える歴史は、およそ35万年前のネアンデルタール人から始まるといわれており、4000年前の古代エジプト王の墓にも供養のための花が出土されています。
お花を贈る習慣は、相手に気持ちを伝える方法であり、葬儀の供花は、故人を偲ぶお悔やみの気持ちを遺族に伝えるものなのです。
葬儀でいくらかかる?供花の価格相場
供花は祭壇の両側に設けられるものが一般的であるため、本来は2基を合わせて一対として贈るものでした。現代では贈る側の費用や会場の大きさなどを考慮して、1基のみで贈ることもマナー違反ではありません。
供花の平均的な価格相場は、1基あたり1万円から1万5千円といわれています。一対として贈るのであれば単純に2倍の価格となるので、2万円から3万円が良い相場であると思われます。
祭壇に設けられる供花以外にも、葬式会場では様々な場所にお花が設けられています。これらの相場価格についても記載します。
枕花
枕花は名前のとおり故人の枕元にお供えする花のことをいいます。枕花の価格相場は、5千円から2万円程度と、供花とあまり変わらないです。
花輪・樒
供花と同じ意味で捉えがちですが、供花が祭壇に飾る花であるものに対し、花輪は会場周辺や会場入り口、祭壇以外の内部に飾るものです。葬儀以外にも開店したお店に置かれているものを見たことがあるでしょう。花輪の価格相場も供花とあまり変わらず、1万5千円から2万円が適当です。
花輪が関東方面で見られるものに対し、樒は関西方面で一般的に見られます。樒は白い花を咲かせる常緑樹の植物です。樒が葬儀の場で使わるようになったのは、土葬が一般的だった時代に動物や悪霊から遺体を守る効果があるといわれていたためです。
こうした考えは理にかなっており、実際に樒は独特なにおいを出すとともに、全ての部分にアニサチンと言われる毒が含まれているため、遺体に動物が近づかなかったのです。樒の価格相場も花輪と同じくらいの1万5千円から2万円が適当です。
このように供花以外の花も葬儀には設けられており、故人に対して贈ることができます。近年では、葬儀の形式に捉われずに葬式会場を彩ることができるフラワースタンドも人気を博しており、他にはない遺族や関係者の故人を偲ぶ会場をつくることができます。
供花は菊の花?供花の種類
供花にはどのような種類の花がよいのでしょうか。まず日本の仏教式の葬式では白菊を主に使用すると思われます。日本では、菊が皇室の紋章でもあるため格調高く、国の花が菊だから葬式に使われると言われています。
しかしヨーロッパにも昔から菊を墓参りなどで使用しており、フランスでは祭壇に菊の花を飾る文化もありました。その他の国々でも菊は葬儀に使用されています。日本だから菊という考えは少し違います。菊を世界中の葬儀で使用する理由は大きく3点あります。
1点目は
花が枯れにくいことです。悪い知らせがあった時、用意した花が葬儀の最中に枯れてしまっては故人に対して申し訳ありません。故に昔の人たちは、花が咲いても長持ちする菊を重宝したのです。
2点目は
世界中に多くの種類が存在する植物であることです。日本で見られる菊はおよそ350種類ですが、世界中には2万種以上の種類が存在します。種類が多いということは、その分色合いや花びらの形がさまざまであり、観賞用として楽しめるのです。また一般的に寒さに強いため、文明の発達していた北半球の寒い地域でも育つ植物だったのです。
3点目は
一年中用意することができるためです。菊は短日植物といわれ、夜が長くなるとつぼみをつくる植物です。つまり気温による季節の変化でなく、光の浴びた時間で開花の時期が変化するのです。菊は寒さに強いため、寒い地域でも暖かくした部屋を温室栽培のようにすることで、冬場でも花を咲かすことが可能なのです。
花が長期に咲く、種類が豊富で鑑賞に良く環境に適合できる、大体の季節でも用意することができる、このような菊の特徴が、いつ訪れるかわからない悪い知らせにも対応できるため、菊は葬儀の花として使われてきたのでしょう。
現代では世界中の花の輸送が迅速になったり、温室栽培の機能が向上したこともあり、菊以外の花も一年中観賞することができます。日本も含めほとんどの国では、贈る側が故人や遺族に送りたいお花を送っても問題はないといわれていますが、やはり各宗教のマナーに沿った供花が無難です。
まず仏式である場合、白菊、黄菊、ユリ、胡蝶蘭、神式である場合も仏式と同じような白や黄色の花、カトリックのキリスト教式であればユリ、カスミソウ、カーネーション、胡蝶蘭などの白い花であれば問題ありません。ただしキリスト教の場合は持ち運べる籠タイプの供花が多いみたいです。
またこれらの花の中でも胡蝶蘭は花もちが良く、日本の弔事の色である白色もあるとともに、洋火葬にも違和感なく合わせることができるため、近年人気のある供花の花の一つです。
葬儀場のアレンジから芳名名札まで
故人を偲ぶために供花を贈りたい。しかし宗教や地域だったり、故人や遺族がどのような葬儀を行いたいかによって、供花の種類や数は異なります。そこで一般的に葬儀を担当している葬儀社に供花をお願いするのです。
遺族は訃報を関係者や親族に伝えるとともに、葬儀社と相談し、大体の葬儀場のアレンジを決めていきます。お通夜までの時間、遺族はこうした調整に忙しいので、葬儀社にアレンジに沿った供花を選んで贈ってもらうのです。近年では統一性や規模を考えた葬儀が多いため、葬儀社を経由しない供花はお断りされることもありますので注意を。
お通夜までの時間は短いですが、開式の3時間前まででも間に合うと思われるので、葬儀社に確認しましょう。
次に供花に付ける芳名名札のマナーについて書いていきます。
送り主個人の場合では、贈り主の氏名を明記すればよろしいです。
会社名、(役職名)代表者名をフルネームで書き
会社名、部署名に続き、一同と記載します。
大学や高校名、卒業年度、友人一同の順で記載していきます。
(苗字)家、子ども一同と書いていきます。
難しいものではないですが、故人の面子と、誰にでも見れてしまうところに記載されるので、変な失敗は許されません。とはいえ芳名名札も葬儀社に任せればいいので、お任せすることが一番の作戦です。
供花を贈る人には、事情で法要に出席できない人が多くいます。そこで出席できない旨を伝えるお悔やみ状を供花とともに送ります。お悔やみ状は不幸が重ならないように2枚以上でなく1枚にまとめ、筆ペンや万年筆で筆記します。また忌み言葉である、重ね言葉や不幸な言葉を使わないようにして書くことがマナーです。
供花の用意は訃報を聞いたなればできるだけ早くすることが大事です。しかし最も大事なのはやはり遺族の意志を考慮することで、供花が不要と遺族がいえば、贈る必要はないのです。
まとめ
供花は日本や仏教だけでなく、文明が存在した時にはすでにあった、世界中の宗教や地域にも存在する供養の方法なのです。人に対する思いを花として贈る習慣が世界中にあることは、なんだか感慨深いものです。
供花のアレンジは、葬儀社に相談することで解決できるので、遺族の気持ちに合った追悼の意を示せます。私はこの花を贈りたいという気持ちも大事ですが、やはり故人、遺族の考える葬儀を手伝う形の供花が、喜ばしいものだと思います。