「葬儀会社にエンバーミングをすすめられたけどよくわからない」
「エンバーミング技術を用いた遺体の保存方法を知りたい」
「エンバーマーとなって、遺族の心に寄り添える職業に就きたい」
もしかしたら、あなたもそんなお悩みをお持ちではありませんか?エンバーミングなんて文字だし、日本人としてはなんとなくとっつきにくいんですよね。
エンバーミングはどんな技術でどんな歴史があって、どんなメリットとデメリットがあるのか、わかりやすくまとめました。エンバーミングについて、何もわからないとお悩みでしたら、ぜひ参考になさってくださいね。
もくじ
エンバーミングの意味/歴史
エンバーミングは、専門の資格を持ったエンバーマーが、遺体を衛生面にも配慮した修復を施すことで遺体の長期保存を可能とする技術です。
日本語では遺体衛生保全とも呼びます。衛生面にも配慮した修復とは具体的に、お化粧、防腐処理、滅菌消毒などを行います。つまり、生前と変わらず清潔な姿で亡くなった方とお別れができる処置ともいえますね。
- エンバーミングは遺体の腐敗を抑える
- エンバーミングは生前に近い状態の顔を復元できる
また、エンバーミングは歴史ある確かな技術です。「亡くなった人の姿を生前のままにしたい」という思いは古くからあり、技術として試行錯誤されてきた歴史があります。
その起源は古代エジプトとされていますが、現代のエンバーミング技術は19世紀の南北戦争時代に始まったものです。南北戦争で亡くなった兵士を故郷に送るには、北アメリカ大陸を横断する場合は、数千kmの距離を移動しなくてはいけません。
当然現代ほど輸送技術が発展していませんから、短期での輸送は不可能です。長期で輸送するためには、遺体の腐敗を防ぐ工夫が必要だったのです。そのために開発されたのがエンバーミング技術です。
このようにエンバーミング技術は、広い国土を持つアメリカやカナダを中心に技術的に発展した歴史のある技術です。150年にかけて試行錯誤の信頼性の高い技術です。
日本では1974年にアメリカの医師が日本にエンバーミングを紹介したのが始まりです。1988年に日本初のエンバーミングセンターが開設されています。
エンバーミングのメリットとデメリット
- 衛生面の心配が要らない
- 消臭できるため、病原菌の温床とならない
- 冷温で保存する必要がない
- 生前の姿を維持できる
- 自然なメイクアップができる
- 表情を復元できる
このように、生前のままの故人と対面することで、遺族の心理的な負担を軽減し、遺族のメンタルをケアする効果が期待されています。
顔や髪型、体を美しく整え修復することは、遺体の尊厳を守ることを意味します。また、エンバーミングによって遺体を長期的に衛生的な状態に保つことができれば、日本国外や遠方からの弔問にも対応ができるため、ゆとりある別れを実現できます。より多くの方のメンタルを癒すためにも、エンバーミングは重要なのです。
- エンバーミングの施術費用は保険適用外で20万円以上から30万円以上と高額である
- 施術機関が少ないため、移動が必要であり、遺体の移送費用、遺族の移動費がかかる
しかし、この費用問題は生前の姿を取り戻せるメリットには相応した対価といえるでしょう。
エンバーミングの実情
アメリカやカナダでは、エンバーミングがすでに盛んに行われています。日本においては1988年に認可され、90年代から現在にかけて、葬儀業界を中心にエンバーミングを普及させる動きが続いています。
しかし、現状として日本国内でのエンバーミングの普及率は約2%と、エンバーミングは必ずしも普及しているとは言いがたい状況です。
エンバーミングセンターについては、1988年に埼玉県に日本初のエンバーミングセンターが開設され、2015年時点で全国で52か所とエンバーミングの広がりをみせつつあります。しかし、エンバーミングセンターは国内主要都市に密集している傾向があります。
日本全体でみると、エンバーミングセンターはまだまだ普及していないでしょう。また、エンバーマーの技術者不足が問題となっています。
2016年の集計では、エンバーミング処置件数は年間約36,000件を超え、国内導入当初と比べて増加傾向にありますしかし、約160人程度のエンバーマーによってエンバーミング処置が行われているのが実態です。このように、エンバーマー不足の実態が明らかになっています。
最後に、エンバーミング費用に関しては、保険は適用されず、全額自己負担となっています。その費用は20万円から30万円です。
しかし、費用自体は90年代の導入初期と比べると、安価になってきています。このように、日本国内では火葬と比べてしまうと、まだ珍しい遺体の処置といえます。
エンバーミング技術と保存期間
- エンバーミング技術
- エンバーミング施術後の遺体の保存期間
具体的にご説明します。
エンバーミング技術
エンバーマーが、エンバーミング技術として科学技術を用いて遺体の処理を行っていますが、具体的にどのような技術なのかを説明します。
- 長距離の移送のために長期間の保存を可能にする
- 消毒により病原菌の温床となってしまうことを避ける
エンバーミング技術自体は以上2点の課題を解決するために発展してきた技術です。
人間や動物の肉体は、死後急速に腐敗が進んでしまいます。体内の微生物、臓器の消化酵素によって細胞の分解が始まるためです。そのまま放置してしまうと、数週間で白骨化してしまいます。エンバーミングは遺族に精神的なショックを与えないためにも必要な技術なのです。
- 全身の洗浄、消毒を行う
- 遺体に小さな切れ込みをいれ、動脈からエンバーミング溶液(防腐剤)を注入する
- 同時に静脈から血液を排出する
- 腹部にも小さな切れ込みを入れ、体液や残存物を排出し、エンバーミング溶液(防腐剤)を注入する
- 切れ込みを縫い、テープを張って見えなくする
- 毛髪や体、表情を整えて、衣装を着付け、化粧を施すなどして遺体にメークアップを施す
エンバーマーによって上記の手順で保存処置が行われた遺体は長期保存が可能です。
4時間程度の施術で、一見、ただ眠っているだけのような生前の安らかな姿を保つことができるのです。処置後にも定期的なメンテナンスを行うことで、より長期間の遺体の保存が実現します。
エンバーミング技術については、アメリカ国内において日本よりも進歩しており、日本国内での今後の技術の刷新が期待されています。
ドライアイスと比較したエンバーミング施術後の遺体の保存期間
ここでは、エンバーミングによる保存期間を、ドライアイスの保存期間について触れながら解説していきます。
エンバーミングによる遺体の保存期間は、
エンバーミング | ドライアイス (従来の保存方法) |
|
保存期間 | 2週間以上/定期的な メンテナンスで 半永久的に保存可能※ |
1週間程度 |
メンテナンス | 数週間 | 2日に1回交換 |
費用 | 20万円~30万円 | 1回の交換費用2万円程度 |
2週間で7回の交換をすると、 交換費用計14万円程度 |
※日本国内のエンバーミングに関しては日本遺体衛生保全協会の基準において、海外への搬送を除き、火葬までの日数を50日としています
保存期間はエンバーミングの方が長いことが分かりますね。エンバーミングでは、定期的なメンテナンスを繰り返すことで半永久的な保存が可能であり、遺体を展示するケースもあります。
エンバーミング費用は安く見積もれば、15万円という安価でエンバーミング処置を施せる場合があります。そのような場合、14万円で2週間保存ドライアイスで保存する場合とほぼ同じコストになります。
さらに、ドライアイスでは、体の表面上の腐敗を避けることができても、体の内側の腐敗を避けることはできません。エンバーミングは、体の内部にも防腐処置を行うため、感染症を防げるほか、腐敗で表情が崩れないように特殊な技術でメイクアップすることも可能です。
エンバーミングを安価で見積もれるならば、ドライアイスよりもエンバーミングで保存することをおすすめします。
エンバーマーの仕事、就職
- エンバーマー/日本遺体衛生保全協会の仕事
- エンバーマーの年収や就職
- エンバーマーの育成となり方
エンバーマーを理解するためのヒントとしてこの3つをご用意しました。以下で詳しくご説明します。
エンバーマー/日本遺体衛生保全協会の仕事
エンバーマーとは、エンバーミング施術を行う、特殊なライセンスを持った技術者のことです。
エンバーマーは、厳密には医学資格を持つ医療従事者や、一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)にてエンバーマーライセンスを取得した技術者を指します。つまり、エンバーミング業者ですね。
この日本遺体衛生保全協会とは、全国の葬儀社やエンバーマーからなる団体です。エンバーミングとして遺体に防腐処理を行い、遺体の状態を生前の状態に保つため、日本国内では遺体衛生保全を掲げる組織としての認識が広まりつつあります。
日本遺体衛生保全協会のエンバーマーライセンスですが、現在国家資格化や法制化が進んでおり、エンバーミングの知名度は増していくでしょう。
エンバーマーの年収や就職
エンバーマーのやりがいは、遺族への貢献度の高さです。エンバーマーの仕事は、生前のままの姿を保存して送り届けるためです。遺族の悲しみを癒して、遺族の今後の人生の支えになります。「人の役に立つ」というやりがいは、他の職業よりも多いでしょう。
また、平均年収については正社員採用で平均500万円程度です。これは平均なので、エンバーマーとして平均年収以上に稼いでいる方もいます。専門性を加味した高い年収といえますね。
最後に、日本のエンバーミングは人材不足問題を抱えています。今後、国家資格化や法制化が進めば、公的に認められた職業として、信用性が高くなり、年収が挙がる可能性があります。エンバーマーの需要が右肩上がりというデータもあるため、今後エンバーマーで職を失うということはまずありえないでしょう。
エンバーマーの育成/なり方
また、日本国内でもエンバーマーの育成も行われています。
- 日本遺体衛生保全協会認定の養成学校に通う
- 海外のエンバーマー養成学校に留学する
日本のエンバーマー養成学校は大阪府と神奈川県に1校ずつあります。このうち神奈川県の養成学校は、平塚市の学校法人鶴嶺学園が経営する日本ヒューマンセレモニー専門学校エンバーマーコースです。
2年間の全日制で1年自が入学金別途費用込みで140万円程度、2年次が100万円程度です。300万円弱でエンバーマーになれますね。
エンバーマーが育成される過程を知っていただくために、入学後の流れをご説明します。6か月間が座学で、日本遺体衛生保全協会認定の講師のもと、エンバーミング施術に必要な知識を学習します。筆記試験合格後は、基礎実習を半年行い、実習試験を受けます。
実習試験合格後は、1年間の研修期間を経て、公認エンバーマー試験に合格後、卒業となります。この実習試験には、50件以上の基礎実習が必要で、実習試験合格後の研修期間では、100件以上の研修が必要です。
公認エンバーマー試験に合格し、ライセンスを取得したら葬儀会社やエンバーミング実施企業に就職し、技師としてエンバーミングセンターで勤務することになります。
まとめ
今回はエンバーミングの意味から、エンバーミングと従来のドライアイスを用いた保存法の比較、エンバーマーの職業紹介をご説明しました。
1988年の導入以降着実に需要が広がっており、それだけニーズのある分野といえます。このまま需要が拡大すれば、エンバーミングをサービスとして提供する葬儀会社も増えることでしょう。
今後のお葬式の主流となるでしょうから、エンバーミングについてきちんとおさえておきましょうね。