自筆証書遺言は、紙とペンがあれば自分で作れる遺言書です。
公正証書遺言に比べて費用を抑えやすく、思い立ったときに作成できるため、終活の第一歩として検討する方も多いでしょう。
ただし、自筆証書遺言は「自分で書ける」からこそ、書き方の要件を満たしていないと無効になるリスクがあります。
さらに、以前の記事公開後に制度が変わり、財産目録の扱いや法務局の自筆証書遺言書保管制度など、知っておきたいポイントが増えました。
この記事では、自筆証書遺言の正しい書き方、無効になりやすい注意点、法務局保管制度と検認の違いを、終活の視点からわかりやすく解説します。
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で作成する遺言書のことです。
普通方式の遺言には、主に次の3種類があります。
- 自筆証書遺言: 本人が自筆で作成する遺言
- 公正証書遺言: 公証人に作成してもらう遺言
- 秘密証書遺言: 内容を秘密にしたまま存在を公証してもらう遺言
自筆証書遺言は、費用を抑えやすく、証人も不要で、ひとりで作成できる点が大きなメリットです。
一方で、作成時に専門家や公証人が内容を確認するわけではないため、形式不備、書き間違い、財産の特定不足、保管場所の問題が起きやすいというデメリットがあります。
遺言書全体の考え方やキットを使った準備については、シンプルな遺言書の書き方も参考になります。
自筆証書遺言の基本要件
自筆証書遺言を有効にするには、法律で定められた要件を満たす必要があります。
基本は、次の4つです。
- 本文を遺言者本人が自書する
- 作成した日付を自書する
- 氏名を自書する
- 押印する
このうち、本文、日付、氏名は、原則として本人が手書きする必要があります。
パソコンで本文を作ったり、家族が代筆したり、音声や動画で残しただけでは、自筆証書遺言としての要件を満たしません。
参考:法務省「自筆証書遺言書保管制度」
日付は「特定できる日」を書く
日付は、いつ作成した遺言書なのかを特定するために重要です。
「令和○年○月○日」「2026年6月6日」のように、年月日まで明確に書きましょう。
「○月吉日」のように日付が特定できない表現は、無効になるリスクがあります。
夫婦連名の遺言書は避ける
夫婦で同じ紙に遺言を書き、ふたりで署名する形は避けましょう。
遺言は、原則としてひとりずつ作成するものです。夫婦それぞれの希望が同じでも、夫の遺言書と妻の遺言書を別々に作成します。
押印は忘れずに行う
自筆証書遺言には押印が必要です。
認印でも有効とされるケースはありますが、後日のトラブルを減らすためには、実印を使い、印鑑証明書とあわせて保管することも検討できます。
ただし、印鑑証明書の添付自体が自筆証書遺言の成立要件というわけではありません。あくまで本人が作成したことを示す補助資料として考えましょう。
財産目録はパソコン作成や資料添付も可能
旧記事では「財産目録もすべて本人が自筆で書く必要がある」と説明していましたが、現在はこの点が変わっています。
自筆証書遺言の本文は本人が自書する必要がありますが、財産目録については自書でなくてもよいことになっています。
たとえば、次のような方法が考えられます。
- パソコンで作成した財産目録を添付する
- 預貯金通帳のコピーを添付する
- 不動産の登記事項証明書を添付する
- 証券口座の残高明細を添付する
ただし、自書でない財産目録を添付する場合は、財産目録の各ページに署名と押印が必要です。
両面に記載がある場合は、両面に署名押印が必要になる点にも注意してください。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言に決まった書式はありませんが、家族が手続きしやすいように、内容はできるだけ具体的に書きましょう。
基本の流れは次の通りです。
- 誰に何を渡すかを決める
- 財産を正確に特定する
- 遺言執行者を指定するか検討する
- 予備的な内容も考える
- 付言事項で家族への思いを書く
- 日付、氏名、押印を確認する
預貯金を書く場合
預貯金を遺言書に書く場合は、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号などを具体的に書きます。
例としては、次のような形です。
遺言者は、遺言者名義の○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○の預金を、長男○○○○に相続させる。
銀行名や支店名が変わることもあるため、財産目録を定期的に見直すことも大切です。
不動産を書く場合
不動産は、住所だけでは特定が不十分になることがあります。
土地なら所在、地番、地目、地積、建物なら所在、家屋番号、種類、構造、床面積など、登記事項証明書の内容に合わせて書くと安全です。
相続登記は義務化されています。不動産を持っている方は、遺言書とあわせて実家の名義変更と相続登記も確認しておきましょう。
相続人以外へ渡す場合
相続人ではない人へ財産を渡したい場合は、「相続させる」ではなく「遺贈する」という表現を使います。
たとえば、内縁の配偶者、世話になった親族、友人、団体などへ財産を渡したい場合は、遺贈の形になります。
ただし、遺留分の問題が起きることもあります。相続人以外へ大きな財産を渡したい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談する方が安全です。
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人のことです。
預貯金の解約、不動産の名義変更、相続人以外への遺贈などがある場合は、遺言執行者を指定しておくと手続きが進めやすくなることがあります。
家族を指定することもできますが、相続関係が複雑な場合や不動産が多い場合は、専門家を指定する選択肢もあります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言の大きな弱点は、保管です。
自宅に置いておくと、家族が見つけられない、紛失する、破棄される、改ざんを疑われるなどの問題が起こることがあります。
この弱点を補う制度として、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」があります。
この制度は、遺言者本人が作成した自筆証書遺言を法務局に預け、原本と画像データを保管してもらう仕組みです。
法務局保管制度のメリット
- 遺言書の紛失や改ざんを防ぎやすい
- 法務局で形式面の確認を受けられる
- 相続開始後、家庭裁判所の検認が不要になる
- 相続人等が遺言書情報証明書を請求できる
- 通知制度により、遺言書の存在を相続人等へ知らせやすい
特に重要なのは、法務局で保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が不要になる点です。
自宅保管の自筆証書遺言よりも、相続開始後の手続きが進めやすくなります。
法務局保管制度の注意点
一方で、法務局が遺言内容の法的な有効性や、相続トラブルの有無まで保証してくれるわけではありません。
法務局で確認されるのは、主に形式面です。
「誰に何を渡すか」の内容があいまいだったり、遺留分の問題があったり、財産の特定が不十分だったりすると、相続後にトラブルになる可能性は残ります。
また、保管申請は遺言者本人が行う必要があります。家族が代理で申請することはできません。
参考:法務省「自筆証書遺言書保管制度」
検認が必要なケース・不要なケース
検認とは、家庭裁判所で遺言書の状態や内容を確認し、相続人に遺言書の存在を知らせる手続きです。
検認は、遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きであり、遺言書の有効・無効を最終判断する手続きではありません。
参考:裁判所「遺言書の検認」
検認が必要なケース
自宅、貸金庫、家族の手元などで保管されていた自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所で検認が必要です。
封印されている遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもと開封する必要があります。
勝手に開封しても遺言書そのものが当然に無効になるわけではありませんが、過料の対象になることがあります。
検認が不要なケース
- 公正証書遺言
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言
この2つは、相続開始後に家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。
自筆証書遺言が無効・トラブルになりやすい例
自筆証書遺言では、次のようなケースに注意しましょう。
- 本文をパソコンで作成している
- 日付が「吉日」などで特定できない
- 氏名や押印がない
- 夫婦連名で1通の遺言書を作っている
- 訂正方法が法律上の方式に合っていない
- 財産の特定があいまい
- 遺留分をまったく考慮していない
- 古い遺言書と新しい遺言書の内容が矛盾している
- 保管場所を家族が知らない
特に、訂正は方式が厳格です。書き間違えた場合は、無理に訂正するより、最初から書き直した方が安全なこともあります。
また、認知症などで判断能力が疑われる状態で作成した遺言は、相続後に有効性を争われることがあります。認知症と遺言の効力については、認知症の遺言に効力はある?も参考にしてください。
自筆証書遺言と公正証書遺言はどちらがよい?
自筆証書遺言と公正証書遺言は、どちらが絶対によいというものではありません。
家庭の事情や財産の内容によって向き不向きがあります。
自筆証書遺言が向いている人
- まずは費用を抑えて遺言書を作りたい
- 財産や相続関係が比較的シンプル
- 内容をこまめに見直したい
- 法務局保管制度を利用する予定がある
公正証書遺言が向いている人
- 相続人同士の関係が複雑
- 不動産や事業用財産が多い
- 相続人以外への遺贈を考えている
- 遺留分トラブルが心配
- 形式不備のリスクをできるだけ減らしたい
自筆証書遺言は手軽ですが、内容が複雑な場合は、公正証書遺言や専門家への相談も検討しましょう。
お金や相続全体の設計を考える場合は、関連して生前贈与と相続税対策も確認しておくと、遺言書だけでは見えにくい部分を整理できます。
作成後にやるべきこと
遺言書は、書いたら終わりではありません。
次のような点も整理しておきましょう。
- 保管場所を決める
- 法務局保管制度を使うか検討する
- 財産目録を定期的に更新する
- 相続人や遺言執行者に必要な情報を伝える
- 不動産、預貯金、保険、デジタル資産を一覧にする
- 家族構成や財産状況が変わったら見直す
スマホ、ネット銀行、サブスク、ポイントなどの情報も、家族が見つけにくい財産・契約です。遺言書とあわせて、デジタル終活やマイル・ポイントの相続も整理しておくと安心です。
よくある質問
自筆証書遺言は封筒に入れないと無効ですか?
封筒に入れていないからといって、自筆証書遺言が当然に無効になるわけではありません。
ただし、紛失や改ざんを防ぐためには、封筒に入れて保管する方が安心です。自宅保管の場合は、相続開始後に検認が必要になる点も忘れないようにしましょう。
家族に代筆してもらえますか?
自筆証書遺言の本文、日付、氏名は、原則として本人が自書する必要があります。
家族が代筆した本文は、自筆証書遺言として無効になるリスクがあります。字を書くことが難しい場合は、公正証書遺言など別の方法を検討しましょう。
財産目録だけパソコンで作れますか?
はい。財産目録はパソコンで作成したものや、通帳コピー、不動産の登記事項証明書などを添付することができます。
ただし、自書でない財産目録には、各ページに署名と押印が必要です。
法務局に預ければ内容もチェックしてもらえますか?
法務局では、形式面の確認は行われますが、遺言の内容が相続トラブルを起こさないか、税金上有利か、遺留分を侵害しないかまで判断してくれるわけではありません。
内容に不安がある場合は、弁護士、司法書士、税理士などに相談しましょう。
古い遺言書がある場合、新しく書けばよいですか?
新しい遺言書と古い遺言書の内容が矛盾する場合、原則として新しい内容が優先されます。
ただし、古い遺言書が残っていると家族が混乱することがあります。新しく作るときは、以前の遺言を撤回する旨を明記し、保管場所も整理しておくと安心です。
まとめ 自筆証書遺言は「書き方」と「保管」が大切
自筆証書遺言の書き方と注意点について解説してきました。
- 自筆証書遺言は、本文・日付・氏名を本人が自書し、押印する必要がある
- 財産目録はパソコン作成や資料添付も可能だが、各ページに署名押印が必要
- 日付不明、夫婦連名、押印漏れ、財産の特定不足はトラブルになりやすい
- 自宅保管の自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要
- 法務局の保管制度を使うと、紛失・改ざんを防ぎやすく、検認も不要になる
- 法務局保管制度でも、内容の法的妥当性まで保証されるわけではない
- 複雑な相続では、公正証書遺言や専門家への相談も検討する
自筆証書遺言は、家族に思いを残すための大切な終活です。
しかし、正しい形式で書き、家族が使える状態で保管しておかなければ、せっかくの遺言書が争いの火種になることもあります。
まずは財産を整理し、誰に何を残したいのかを書き出しましょう。そのうえで、自筆証書遺言で足りるのか、公正証書遺言や専門家の支援が必要なのかを考えることが大切です。
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