ロコモティブシンドローム、通称「ロコモ」という言葉をご存知ですか?実はこの「ロコモ」、さまざまな生活習慣病を誘発する「メタボ」以上に高齢者にとっては注意したい体の状態を指します。
「立つ」「歩く」という日常生活に欠かせない運動機能の意味するロコモティブシンドロームは、進行すると介護なしには日常生活が送れなくなってしまい、最終的には「寝たきり」の生活を余儀なくされてしまうのです。
せっかく長生きできても、何年も寝たきりで過ごすのでは、充実した老後とは言えませんし、家族や周りの人にも迷惑をかけることになってしまいます。
またロコモが進むと、身体を動かすのがおっくうになることから肥満が進んでメタボリックシンドロームを引き起こし、糖尿病などの生活習慣病を患う可能性もアップしますし、ロコモによって外出の機会が減って家の中に引きこもってしまうことで認知症が進んでしまうなど、高齢者の健康に深刻な影響を及ぼします。
まずは現状のロコモ度をチェックし、自分自身の健康度をチェック。
改善のポイントのほか、ロコモ度が進行した場合の治療の現状を知って、終活期をより意義深く楽しく過ごす方法を学びましょう。
もくじ
「ロコモ」とは運動器障害により移動機能が低下した状態のこと
ロコモティブシンドロームとは、筋肉や骨、関節、軟骨、椎間板など体を動かすのに必要な運動器とよばれる体の機関のいずれか、あるいは複数に障害が起こって、立ったり歩いたりする移動機能が低下している状態のことを指します。日本語では「運動器症候群」と言います。
ロコモという概念が生まれたのは、人類の寿命が飛躍的に伸びて超高齢化社会になりつつある今だからこそのことです。
加齢によって筋肉量が低下することをサルコペニアといいますが、歳を経るとこのサルコペニアと同時に骨に骨粗しょう症や骨折、関節部の軟骨のすりヘリや変形、椎間板狭窄なども起こりやすくなります。
すると、階段の上り下りをするとひざが痛くなったり、障害物がない平たんな場所でも転びやすくなったり、バランスを崩しやすくなったり、背中や腰が曲がるなどの姿勢変化が出たりします。筋力も落ちているため、少しの動作でも疲れやすくなり、重いものを持ったりするのも大変に。
これらにより、移動機能の低下(歩行障害)が起こり、さらに運動器障害が進行すると、日常生活にも支障をきたすようになってしまいます。さらに進行すれば、なにをするにも人の手を借りなければ生活できない要介護状態に陥り、最終的には寝たきり生活に……。
せっかく長生きするなら、なるべく長く自分の足で歩き、動けるように、ロコモを予防して健康寿命(自立した生活を送れる期間)を伸ばしていく努力が必要です。
こんな「不便」を感じていませんか?
ロコモはある日突然、発症する病気とは違い、自覚症状のないまま、毎日少しずつ進行していくのが最大の特徴です。日常生活で感じる「不便」は、ひょっとしたらロコモ予備軍の予兆かも。
まずは、日常生活でロコモの傾向がないかをチェックしましょう。
ロコチェック*日本整形外科学会公認 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトより
以下項目のうち、ひとつでも心当たりがあったら、医師への相談をお勧めします。
姿勢の変化に応じて、バランスをとることができるか、筋力と神経の働きの正常度をチェック。
足の筋力低下やけいれんなどによって、自分がイメージするほど足が上がっていない状態かどうかを見ます。
ひざなどの関節障害で痛みがあるか、片足で自分の体重を支える筋力の有無を確認。
全身を使う動きがスムーズにできるか、日常生活がこなせる程度の筋力があるかをチェック。
2kg程度の重さを基準に、日常の買い物に支障がないかどうかを確認。
歩き続けることができないときは、筋力低下のほかに動脈硬化などの血行障害が原因の「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」の疑いがあります。
通常、1秒間に1m歩くことを想定して設定されている横断歩道の歩行者用青信号。渡りきることができるかどうかで、歩行速度をチェックします。
これ以外にも「階段の上り下りをするとひざが痛んで辛い」「手足にこわばりがあって物を取り落とすことがある」「ジュースや瓶のふたが開けづらくなった」などの不便を感じる人も、要注意です。
3ステップのロコモ度テストに挑戦!
自分の身体(とくに運動機能)が、どの程度衰えているのかを調べ、ロコモの危険度をチェックするために2013年に公益社団法人 日本整形外科学会が発表したのが「ロコモ度」テスト。簡単な3つのテストで、現在の身体の状態と将来、ロコモになる危険度を判断するものです。
こちらのサイトで、ロコモ度テストを手軽に行うことができます。
ロコモ度テスト *日本整形外科学会公認 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトより
https://locomo-joa.jp/check/test/
計測やテストの補助を誰かに手伝ってもらう必要があるので、子供たちの家族や友人が集まった時などに、みんなで挑戦するとよいでしょう。3つめのテストの生活状況のチェックについては1人でも行えますから、今すぐトライしてみましょう。
3つのテストのうち、ひとつでもロコモ度1以上なら要注意
3つのテストを行って、その結果が1つでもロコモ度1、またはロコモ度2に当てはまったら、要注意です。今日からでも、毎日身体を動かすことを習慣にして、運動機能がこれ以上低下することがないように気を配ることが大切です。
すでに日常生活をひとりで行うことが困難だったり、身体を動かすと痛みがあるような場合は、すみやかに病院を受診したり、家族や介護ケア関連機関に相談することが重要です。
また、現在はロコモ度1、2未満であっても、世代相応の平均に達してない場合は、このままの状態が続くと、将来ロコモになる可能性が高いと考えられます。将来に備えて、ロコモ対策を始めましょう。
ロコモになりやすい人って、どんな人?
ロコモティブシンドロームが進行しやすい人には特徴があります。思い当たるところはありませんか?
体を動かすのが面倒・運動が嫌い
加齢によって低下する筋力や骨の強度ですが、適度な運動をすれば衰えをくいとめることができます。改まって運動をしなくても、こまめに動くことを心がけるだけで、ロコモ予防に効果があります。
若いころから激しい運動を続けている
激しいスポーツで足や腰、膝の筋肉を傷めたり、負担をかけ続けてしまうと、逆にロコモは進行しやすくなってしまいます。「昔の古傷が痛む」のが原因で、歩けなくなってしまっては困ります。歳を重ねたら、激しすぎる運動は控えて、適度な強度の運動に切り替えることが大切です。
近くのコンビニに行くときも車で移動する
コンビニのみならず、ほんの少しの距離でも自動車に乗ってしまい、極端に歩くことを避けてしまう。
エスカレーターやエレベーターがあれば、階段は使わない
文明の利器を利用するのは悪いことではありませんが、頼り切ってしまうのは考えもの。多少時間はかかっても、時間に余裕があるときは「健康のために」と思って、近場なら歩いて移動する、2~3階の移動なら階段を利用するように習慣づけましょう。ただし、それによって痛みを感じるようなときは、文明の利器の恩恵にあずかり、痛みのない範囲で身体を動かしましょう。
肥満タイプ
生活習慣病の誘因となるメタボ肥満は、身体を動かしづらくなるためそのままロコモに直結します。体重が重ければ、それだけ足腰の筋肉にかかる負担も大きくなってしまい、膝などの軟骨がすり減る危険度もアップします。適性範囲の健康的な体重を維持するように、食生活を見直し、不健康な生活習慣を改善しましょう。
痩せタイプ
健康的なイメージの痩せタイプも、実はロコモには注意が必要です。とくに肉や乳製品を避けて野菜中心の食生活を送り、スリムな体型を維持しているという人は、筋肉を作るたんぱく質やカルシウムが不足している可能性があります。
筋肉量が減ってしまうと、当然筋力も低下しますし、いくつになっても毎日生まれ変わっている骨を再生させるにはカルシウムは不可欠です。食事で必要量を十分に摂れないときは、サプリメントの利用なども考えてみましょう。
女性
女性は男性に比べると、もともとの筋肉量が少ないので、加齢による筋力の低下や運動器の衰えが顕著です。また女性に多いのが、膝の軟骨やじん帯、関節などの損傷による「ひざの痛み」がでがちです。
女性は50歳前後の閉経がホルモンの働きに影響を与えて、骨密度を急激に低下させるため、骨粗しょう症や骨折の危険度が高いのも特徴です。
ダイエット中
体重を落とそうと、むやみに食事を制限するとロコモが進行してしまう恐れがあります。全体の摂取カロリーは低めに抑えても、良質なたんぱく質や骨を作ってくれるカルシウムなど、運動器のために必要な栄養素は十分に摂ることが大切です。
また、中年以降は短期間で急激に体重を落とす過激なダイエット法に頼らず、適度な運動とバランスの取れた適量の食事、そして生活習慣の改善などでゆるやかに体重を落とし、健康体重に達したらそれをずっと維持する(リバウンドさせない。体重を落としすぎない)ように心がけましょう。
ロコモから蘇る治療法はある?
まずは痛みを抑える
ロコモ度の進行を抑える治療法としては、まず痛みがある部位の治療ということになります。痛み・炎症が見られる場合はまずは安静にして、消炎鎮痛剤のシップや飲み薬で症状を軽減させます。
骨粗しょう症の場合は、治療薬などの薬物療法のほか、温熱療法や運動療法(リハビリ)、装具療法(コルセット)などが行われます。
日常生活が困難になったら、手術なども
こうした保存療法でも改善が見られない場合や、日常生活に著しい影響が出る場合は、手術が行われることもあります。人工関節を入れたり、すり減った軟骨部位を再生させる最新の治療法である「幹細胞注入治療」などもあります。
ロコモの進行を食い止める予防法は?
歳を重ねれば、少しずつ筋力が低下するサルコペニアという状態は、誰にも逃れられません。しかし、日ごろの心がけ次第では、筋力低下を最小限に食い止め、最後まで自分で自分の事ができる程度に動ける体をキープする筋力を維持する予防法があります。
ロコモ度テストでご紹介した「ロコトレ」のほか、日常生活におけるロコモ予防法をご紹介します。
「ロコトレ」を毎日の習慣に!
ロコモの進行を抑える「ロコトレ」は、短時間できる簡単な2つの運動です。無理のない程度に、毎日続けることが一番のポイントです。ロコトレの詳しいやり方については以下のサイトをご覧ください。とても簡単な運動です。
ロコトレ *日本整形外科学会公認 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトよりhttps://locomo-joa.jp/check/locotre/
意識して「動く」
ロコモ予防のために、いきなりハードなトレーニングをする必要はありません。そのトレーニングが一生続けられるのならよいのですが、ハードすぎてけがをしたり、3日坊主になるくらいなら、やらないほうがましです。
一番よいのは、日常の生活で今まで以上に動くようにすること。他の家族がしていた犬の散歩を引き受ける、エレベーターやエスカレーターに乗らず階段を利用する、面倒だからと家族に「○○取って」と頼まずに自分で立ち上がって取りに行く……。
ささいな「動作」を増やすだけでも、1日のトータルの運動量はぐんとアップします。動くことを億劫がらない意識を持つことこそが、ロコモ予防のポイントです。
口の健康もロコモ対策には不可欠
丈夫な歯は健康維持に不可欠であることはよく知られていますが、物をかみしめることで脳に刺激を与え、認知症予防に効果があるほか、ロコモの予防効果があることはまだあまり知られていません。
ロコモの予防効果に口の健康が欠かせない理由の一つが、しっかり食事ができるという点です。筋肉を作る良質なたんぱく質や、骨の主成分であるカルシウムを十分含む食事をしっかりとるには、歯が健康でしっかり噛んで飲み込めることがとても重要です。
歯や口内が健康で、咀嚼という動作に加え、食べ物を飲み下す(嚥下)する動作もできることが、大切です。
あごの筋肉がしっかりしていて、歯が健康な状態を保てていれば、歯を食いしばることができます。奥歯をかみしめて、食いしばることにより体の踏ん張りがきき、身体が安定するので動作が行いやすくなります。
しっかり噛んで口を動かすことにより、表情筋が刺激されて表情が豊かになります。滑舌の衰えを防ぐこともできますから「老けこんでしまって、人と会いたくない」と、外出が億劫になったり、人付き合いに消極的になるリスクが減り、その分、活動的になります。
噛む動作は脳を刺激するため、筋肉と神経の連携もよくなり、ロコモと同時に認知症予防にも役立ちます。
食事で行うロコモ対策
人間の身体は、いくつになっても日々代謝して生まれ変わっています。「明日の身体は今日の食事で作られる」という言葉通り、毎日何をどのように食べるかは、健康に大きく影響しますから、ロコモ対策にも食事面での注意は欠かせません。
歳を取ると、どうしても噛むのが面倒になったり、飲み込みにくくなったりするため、やわらかいものを好むようになりますが、できるかぎり噛み応えのある食事を心がけます。
よく噛んで食べることで、脳を刺激する効果もありますし、顎などの口の筋肉も鍛えられます。またよく噛むことで、唾液に含まれているアンチエイジング効果のあるパロチンという成分が分泌され、虫歯を防いだり歯や骨の再石灰化を助けてくれます。
食事メニューのうち、どれか1つでも噛み応えのあるものを取るようにしましょう。
肥満を気にして、肉や乳製品を摂らないようにすると、筋肉の生成に必要なたんぱく質、骨の再生に役立つカルシウムなどが不足してしまいます。コレステロール値を必要以上に気にして、油を一切抜くのも健康にはよくありません。
油は体の細胞の細胞膜や各種ホルモンの材料になったり、脳や心臓など体の重要な機能を維持するために欠かせないものです。また肌や髪のかさつきなどを抑え、しっとりと保ってくれます。世の中で流行する「○○抜き」ダイエットの類はやめて、どんな食材もまんべんなく適量摂り、栄養バランスの取れた食事になるように心がけましょう。
食事だけでは、必要な栄養素が取れないときは、サプリメントなどの健康食品を利用してもよいでしょう。なお、疾患により食事制限などがある場合は、医師の指導に従いましょう。ただし自己判断で、勝手に「これは食べない」などと決めるのは、身体を壊す大きな要因になります。
「ほどほど」「いい加減」こそ、ロコモ予防の秘訣
ロコモを予防するには、運動習慣や食習慣に気を付けることが大切であることがおわかりいただけたと思います。ただし、大切なのは何事も「やりすぎ」は禁物であるという点です。
「寝たきりになりたくないから、今日からがんばるぞ!」と張り切りすぎて、いきなり激しい運動に挑戦してけがをして動けなくなっては元も子もありませんし、「肥満はロコモの大敵」とばかりに急に過激なダイエットに走ると、骨粗しょう症になったり、筋肉を作るたんぱく質を摂ってないために筋量が増えないということにもなりかねません。
中年以降の健康生活には「ほどほど」や「いい加減(適当ではなくちょうどいい感じ)」をモットーに、毎日少しずつでも運動をして、3度3度の食事に気を付けるという継続が大切。
充実した終活ライフを送るには、まだまだ元気に動ける体が必要不可欠です。現状のロコモ度を知って問題点には速やかに対策を行い、日々の生活で予防を怠らないことで、毎日の暮らしは今以上に生き生きとしたものになるはずです。